法教育の派遣授業に参加しました
2024/10/28
私は、第一東京弁護士会の法教育委員会に所属し、公益活動として小中高校に対する法教育の派遣授業を行う活動に従事しています。かれこれ10年以上、この委員会に所属し、一時期、委員会の副委員長も拝命していました。
法教育の意味については、いろいろな理解があります。法教育という言葉を聞くと、具体的な法律の内容について学ぶことをイメージする方もいらっしゃると思いますし、現に他の弁護士会では特定の法律に焦点を当てた派遣授業が行われることもあります。
このような中、第一東京弁護士会の法教育委員会では、具体的な法律そのものよりも、法の中に存在する価値観や考え方を学ぶことを通じて、紛争を適切に解決する能力や、議論を通じて結論を出す能力を涵養することに重点を置いています。
私は先週、都内のある公立中学校への派遣授業に参加しました。教材は、架空の強盗致傷事件を題材とした模擬裁判で、生徒の皆さんには、証人尋問などにおける供述や証拠に基づいて、被告人が有罪か無罪かを検討してもらいました。
この教材は、有罪と無罪のどちらかが正解ということではなく、どちらの結論もあり得る内容となっています。そのため、一般的な刑事訴訟実務では証拠として提出される防犯カメラの映像などの決定的な客観的証拠はなく、供述の信用性と証拠書面の評価を多角的に検討する必要があります。
私がこの教材に基づく派遣授業を実践することは今回が初めてではなく、過去に何度も担当していますが、どの実施校の生徒の皆さんも、架空の題材について真剣に考えて自分なりに説得力のある結論を導こうとどりょくしてくれます。その努力を見聞きして「よくその視点で検討してくれた!」と大変感心することも一度や二度ではなく、私自身も初心に返って学ぶことができる貴重な時間となっています。今回参加した派遣授業の実施校においても、授業を実施する私たちが想定している着眼点だけではなく、「なるほど」と思わせる意見を述べてくれた生徒もおり、この若い世代が大人になると、社会において大いに活躍してくれると強く期待せざるを得ませんでした。
とかく日本の教育の現場では、受験の影響もあり、特定の「正解」を求めることに意識が向きがちであるという傾向があったと思います。しかしながら、昨今の子どもたちは、正解が定まっていない事柄に取り組む力を養う機会が学校教育の中で与えられており、その教育の成果は将来、素晴らしい果実となって本人だけでなく、社会にも大きな利益をもたらすものになると考えています。
学校の先生方から自分に自信のない子ども達が多いと聞くこともありますが、私が法教育の現場を見る限り、それは根拠のない過小評価であるように思います。少なくとも、もし私が中学生であった際に法教育を受けた場合、今の子ども達のように議論をすることができたとは思えず、それとの比較において、今の子ども達にはもっと自信を持って自己肯定感を高めて欲しいと思います。
この点、SNSなどを見ていると、特定の観点の考え方のみを取り入れて、その他の観点を取り入れない議論をしている方もいます。特にSNSなどは、その使用者の選択に従い、インターネット上の情報を取捨選択して提示するため、特定の考え方のみに捕らわれやすい傾向があります(エコーチェンバー現象)。また、特定の立場から他の立場の意見を論破することに議論の意義を見出す方もいます。
法教育が目指すところは、このような議論ではなく、多様な考え方や利益を踏まえて、利益などの調整を行い、一定の結論を出す能力を身につける点にあります。この意味で法教育は子ども達だけに限らず、多くの方に体験していただく価値があると考えています。
現状、大人向けの法教育の実施については、その例はほとんどありませんが、もしそのような機会を目にした際には、是非ともこれに参加して欲しいと思います。
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